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第1話 Case.03 運び屋と殺し屋を同時にやる方法

Author: 涼風紫音
last update Last Updated: 2025-10-16 20:56:49

 今日も世界は私を中心に回っている、素晴らしい。容姿端麗見目麗しい私の稼ぎのために、ほどほどに荒れた世界がベスト。世界よ、私に尽くしなさいな。

 そんな世界は私のことを放っておくはずもなく、また素敵な依頼を見つけてしまうのだった。運命よ、そんなに私のことを愛さなくても良くってよ?

 辺境も極まったこれといって見るべきところも無い小国同士の戦争が、誰の関心を惹くこともなく終わろうとしていた。そりゃ大陸の真ん中では大国同士がバチバチ開戦間近ともなれば、戦略的にも戦術的にも価値がないくたびれた小国を気にする者がいないのも当然だ。

 しかーし、私は目敏く……いやいや、持ち前の冴えわたる勘によってとある掲示を見つけ出したのだ。さすが私。褒めなくてもできる子。

 運び屋の依頼はおおむねどこでも辻通りに掲示されるのだが、それを直接見なくともどういった内容なのかは転写魔法ですぐに手元に届く。魔法バンザイ。大して使えない私でもそのくらいは朝飯昼飯前なのだ。

 掲示自体はあちこちでひっきりなしに出るものだから、その中から自分がやりたいと思う依頼を見つけると反転魔力を送り込み各自の家名紋章を刻むと契約成立という仕組み。そしてその仕事は誰も引き受けていなかった。

     ◇◆◇

 そう、辺境オブ辺境まで大して高くもない依頼料のために足を運ぶ者は珍しい。よほどの駆け出しひよっこか、そうでなければ何かやらかして食い詰めた者の仕事。場所が悪い。同じ稼ぎなら大国間を行き来する方が道中楽しいし、食事も美味しい。

 引き受け手のないその依頼は丸々二日見向きもされず放置され、なんとも幸運なことに私が見つけ出したというわけだ。ツイてる。最高にツイてるぞ私。

 依頼区分としては要人警護。小国同士の互いに損しかない戦争の後始末として、両国領主間で婚姻関係を結ぶことになったらしい。ついこの間まで戦争を続けて互いに小国なりの無視できない損失を積み上げた結果、この婚姻をどう平和裏に執り行うかが問題になる。警護の兵士など付けようものなら、戦争に逆戻りしかねない。そこで「中立な」運び屋の出番というわけだった。

 正直な話、人間を運ぶのはひっじょーに面倒くさい。腹も減るし寝もするし、トイレだってする。生きているんだからしょうがない。しかし密書や毒薬の密輸などと比べれば手間が半端ないので、報酬をはずまなければ引き受け手がなかなか現れない。しかし両国とも戦争で散財しまくったあとなのでそんな金はない。それで宙に浮いていたというのが事の顛末。

 そんな面倒くさい仕事は私だって受けたくない。だいたい貧乏領主が戦費をばら撒いたあとのはした金なのだから、手間も多いとなればなおさらだ。普通なら。

 なぜ引き受けるかといえば、その婚姻に反対する勢力が両国の間にかなりの数いることは明らかだったからだ。そう、争いはいつだって私の財布になるのよん。

     ◇◆◇

 まず花嫁を出す方の国へ行って、見事すぎる赤いロングヘアを大袈裟な笑顔と憂いを帯びた目で篭絡した。やはり人間は超チョロい。

 もちろん仕事を引き受けるための荷受けに行ったわけだが、領主の館で「こんなにも健気な婚姻の仕事を引き受ける人がいないなんて、世の中は薄情過ぎます」とチャームポイントの泣きボクロに涙を浮かべて白々しいご挨拶。これにて領主はイチコロ。報酬は少しだけ色が付いた。

 その足で家宰に探りを入れてみれば、まあこれが婚姻には大反対。思った通り。だいたい領主の娘を花嫁に迎えて我が世の春を夢見るバカが多いのが貴族という生き物。というわけで首尾よく婚姻をご破算にするという依頼も引き受けてきた。前金がっぽりで。

 そこでピーンときた私は、暗殺者ギルドにこの婚姻に絡んだ暗殺依頼が出てやいないかと魔法でささっと調べてみれば、すぐに出てくる暗殺依頼。こっちは花嫁を迎える側の国の反対派が依頼主。もちろん速攻で私の仕事にする。

 こうして、花嫁を送り届ける(色付き報酬受領済み)、婚姻をご破算にする(前金がっぽりありがとー)、警護対象の花嫁を暗殺する(成功報酬)と、一つの仕事があっという間に三つの仕事に化けたのだ。私ってば賢い! この才に自分が惚れちゃいそう。

     ◇◆◇

 経緯はそんな感じ。花嫁が向かう先に売りつけるべく婚姻反対派の家宰の裏事情も仕込んでから、さっさと向かった。なにしろ運ぶ「物」自体は手間がかかるし面倒な仕事なのだ。

 道中私の美貌を羨んだ花嫁(予定)は盛んに「エルフってみんなそんなに美しいの? 私にも少し分けて欲しいわ」と言ってくるので、散々焦らしてから惚れ薬を分けてあげた。もちろん本当は惚れ薬などでは断じてない。死神くらいは惚れてくれるかもしれないけどね。

 無事花嫁を送り届け、運び屋の仕事は終わり。いっちょあがり。あとは勿体ぶって「必ず初夜の晩に使うんですよ?」とウィンクを決めて渡した惚れ薬という触れ込みの毒で、敢え無く花嫁は天国か地獄へご招待。こうして暗殺者の仕事と婚姻をご破算にするという仕事の二つも、勝手に終わるという具合。

 まあ万一花嫁が惚れ薬に頼らなかったとしても、相手の領主にいかに花嫁の国で悪辣な陰謀が進んでいるかを散々吹き込んでから報復の仕事を無事受領したわけで、早晩婚姻はご破算になる予定。暗殺は……まあ運よく生きていたら、改めて乗り込んで終わらせればいい。守衛は既に悩殺されてメロメロなので簡単なお仕事のはず。

     ◇◆◇

 二日後、花嫁が毒を煽って死んだという噂が流れたことを確認したことで、無事全部の仕事が終わり。ザ・辺境にはさっさと別れを告げて、美味しい物でも食べに行きましょ。

◆◇ 盛夏の月、二十一日の日記 ◇◆

 よく知らない人から何か見分けもつかない物を受け取らないこと。気づいた時にはさようなら。私くらい飛び抜けた容姿ともなれば、断っても断っても贈り物が絶えることがない。その中に私くらい頭の冴えた連中が万一いないとも限らないから、用心用心。

 辺境オブ辺境、ザ・辺境には前評判通り何も無かった。三つの仕事に小遣い稼ぎも足して、報酬だけはよかった。それはほとんど私のおかげ。頑張った、私。

 すべて世は私を中心に回っていることを確認して、おわり。

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